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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1843号 判決

主文

一  被告両名は連帯して原告に対し金五三万二、五〇〇円およびこれに対する昭和四五年四月一日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じ被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限りかりに執行することができる。

事実

(昭和四六年(ワ)第一、八四三号事件)

一  双方の求める裁判

(一)  原告

「主文第一項同旨および訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決。

二  双方の主張

(一)  原告

1  請求の原因

(1) 原告は昭和四三年五月以降東京ニユースタイル学院長である被告真城小夜子から同学院用の教科書等の諸印刷物の印刷製本を、代金は月末締切の翌月末日支払う約束で請負つていた。

(2) 原告は昭和四四年九月一一日被告真城小夜子から編物教科書上巻七、五〇〇冊、同下巻四、八〇〇冊の印刷を請負い、同被告に対し同年一〇月二四日以降同四五年二月一五日まで同上巻七、四六九冊、同下巻四、八〇四冊(以上合計代金五三万二、五〇〇円)を納入した(以下、昭和四四年度納品分という)。

(3) よつて、被告真城仲秋は東京ニユースタイル学院の会長として被告真城小夜子と同学院を共同経営しているものであるから、原告は商法五一一条により被告両名に対し連帯して右代金五三万二、五〇〇円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和四五年四月一日右完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  被告真城小夜子の抗弁に対する答弁

抗弁事実はいずれも否認する。但し、同(3)の事実のうち原告が昭和四三年度納品分のうち約三、〇〇〇冊の不良品に対して次回印刷のときその数量を増刷して補充する旨の約束をしたことは認めるが、右増刷分を金銭で解決することにして増刷はしない約束に変更して、昭和四四年度納品分の印刷等代金を相当に控除して金五三万二、五〇〇円としたものである。

3  被告真城小夜子に対する再抗弁

(1) かりに昭和四四年度納品分に相当数の不良品があつたとしても、原、被告間の取引は請負契約であるが、売買的要素の濃いものであり、さらに民法五五九条により同法五六五条、同五七〇条、五六六条が請負契約に適用され、かつ本件は商人間の取引であるから、商法五二六条の適用又は類推適用もしくは準用がある。そうすると、被告は不良品を発見したときは遅滞なく原告に通知を発しない限りその瑕疵を理由に損害賠償の請求をなすことはできない。しかるに、被告から原告に対しその通知はない。よつて、右請求権のあることを前提とした被告真城小夜子の相殺の抗弁は理由がない。

(2) かりにしからずとするも、右損害賠償請求については、民法六三七条一項により目的物の引渡しを受けたときより一年以内にその請求をなすことを要するが、被告は昭和四四年度納品分の最終引渡時である昭和四五年二月二五日から一年以上を経過した昭和四六年五月一八日の口頭弁論期日においてその請求をしたものであるから、右請求は失当である。よつて、相殺の抗弁は理由がない。

(二)  被告

1  請求原因に対する答弁

(1) 請求原因(1)、(2)項の事実は認める。

(2) 同3項の事実のうち被告真城仲秋が東京ニユースタイル学院の会長をしていることは認めるが、同学院を被告真城小夜子と共同経営していることは否認する。同学院は被告真城小夜子の単独経営である。同被告らに対する原告の請求は争う。

2  被告真城小夜子の抗弁

(1) 被告真城小夜子が原告から納入した昭和四四年度納品分のうち上巻五一六冊、下巻一、一三五冊は不良品であつた。そうすると、原告が本訴で請求する代金のうち不良品合計一、六五一冊を除いた一万六二二冊の印刷製本代合計金四七万七、一九九〇円(単価四五円)の限度において正当である。

(2) ところで被告真城小夜子は右不良品が商品として全く無価値で販売することができないものであるため右の代金相当の損害を蒙つた。右の代金は上巻五一六冊の合計が金七万四、八二〇円(一冊の単価が金一〇〇円で製本代が金四五円である)、下巻一、一三五冊の合計が金一八万七、二七五円(一冊の単価が金一二〇円で製本代が金四二円である)であるから、損害金の合計は金二一万二、〇九五円である。したがつて、同被告は原告に対し前記納品分の瑕疵に基づく右同額の損害賠償請求権がある。

(3) さらに、被告真城小夜子は昭和四三年一一月二〇日原告との間で同被告が原告に同年八月頃注文した編物教科書上巻一万冊、下巻五、〇〇〇冊の納品分(以下、昭和四三年度納品分という)のうち不良品三、〇〇〇冊(うち上巻二、〇〇〇冊、下巻一、〇〇〇冊)について次年度の印刷のとき増冊して同年一〇月二〇日までに納入する約束が成立した。しかるに、原告は右を履行しないので、同被告は右三、〇〇〇冊の代金相当の損害を蒙つた。即ち、編物教科書は一〇月頃から二か月の間が最需要期で、これを過ぎると需要が急速に減少するばかりでなく、毎年その内容を改訂して版を新たにするので年度が変わると商品として無価値となるからである。右代金は上巻二、〇〇〇冊分の合計が金二八万五、六〇〇円(一冊の単価が金一〇〇円で製本代が金四二円八〇銭である)、下巻一、〇〇〇冊の合計が金一六万二、八〇〇円(一冊の単価が金一二〇円で製本代が金四二円八〇銭である)であるから、損害金の合計は金四四万八、四〇〇円である。したがつて同被告は原告に対し前記不良品の代納約束の履行遅滞に基づく右同額の填補賠償請求権がある。

(4) そこで被告は本訴(昭和四六年五月一八日の本件口頭弁論期日)において右損害金債権をもつて右(2)、(3)の順位で、原告の本訴債権のうち前記正当な債権と、かりに原告の本訴債権が全部正当とすれば原告の本訴債権とその対等額において相殺する旨の意思表示をした。よつて原告の請求は失当である。

3  再抗弁に対する被告真城小夜子の答弁

原告の再抗弁はすべて争う。

(昭和四七年(ワ)第六、七一四号反訴事件)

一  双方の求める裁判

(一)  被告真城小夜子

1  「原告は被告真城小夜子に対し金二三万二、五〇五円およびこれに対する昭和四五年二月一六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

2  予備的に、「原告は被告真城小夜子に対し金一七万七、九九五円およびこれに対する昭和四五年二月一六日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  原告

「被告真城小夜子の反訴請求を棄却する。反訴費用は同被告の負担とする。」との判決。

二  双方の主張

(一)  被告真城小夜子の反訴請求の原因

(1)  被告真城小夜子は前記本訴の抗弁(1)、(2)で述べた如く昭和四四年度納品分のうちの不良品一、六五一冊の販売不能のため金二一万二、〇九五円の損害を蒙り、同抗弁(3)で述べた如く昭和四三年度納品分のうち代納する約束の三、〇〇〇冊の不履行により金四四万八、四〇〇円の損害を蒙つた。

(2)  よつて被告真城小夜子が本訴において右損害金債権をもつて、一次的に合計金四七万七、九九九〇円を、二次的に合計金五三万二、五〇〇円を対等額で相殺する旨の意思表示をしたので、被告真城小夜子は原告に対し一次的に相殺した残金二三万二、五〇〇円およびこれに対する原告が納入した日の翌日である昭和四六年二月一六日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、予備的に、二次的に相殺した残金一七万七、九九五円およびこれに対する同じく昭和四六年二月一六日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二)  原告の答弁

反訴請求原因事実はすべて否認する。

(証拠関係)(省略)

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